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松茸の取持った縁<清閑寺>

坂井 久光
ジャンル:
場所:清閑寺
    Seikan-ji Temple

戦前の昭和十六年頃の話である。東山の名刹清閑寺と清水寺との通りを平安女学院の二年生の春野由里が歩いていると街路の赤松の根元に一本の松茸の立派なつぼみが生えているのを見付けた。

丁度その頃、清水寺を参詣して清閑寺への道を辿る三高の二年生の竹中雪雄が散歩してやって来た。見ると前の松の木に一本の松茸が生えているではないか。

その頃は松茸が現在程少くなく、沢山とれたが、街中で生えていることは滅多になく、珍しいことで、これを若い乙女が手にとって嬉しそうにしているのを見て大変驚いた。

思わず彼は「やあ、珍しいこんなところに立派な松茸が生えるなんて」と云った。

春野はつぼみの良型の松茸を手にしていてそれを雪雄に見付けられた。かがんで手にしていた松茸を握っていて思わず顔を赫らめていた。

声の主を見ると三高の帽子をかむった青年の爽やかな笑顔があった。

「私は三高二年生の竹内雪雄です」と云うと「私は平安女学院二年生の春野由里」と答え、お互に打融けて清水寺から霊山観音を通って祇園社へ行き、散歩し乍らお互にカレヂライフや学校の活動に就いて話合った。

雪雄は「明後日が時代祭りだが一緒に見物しないか」と云うと由里も「嬉しい。何処で待合すの」と答へ、蛤門で待合すことにした。

十月二二日秋晴の日に全国から集まった大群衆の中を、ピーヒヨロドンドンの笛や太鼓の囃で、山国勤皇隊を先頭に錦の御旗をかかげて行進し、江戸時代・伏見桃山時代・鎌倉時代と武者行列・騎馬の武将の行列が続き、平安時代の御所車に、十二単の女官や公達の時代衣装に観客一同が感動して祭が最高潮に達し、遠来の観光客も来てよかったの感が強く、地元の人達も京に生まれ住んだ幸に感謝し、普通では見られぬ光景が、タイム・スリップして見られたことを皆喜んでいた。

二人の交際も深まったが、第二次大戦が起り、雪雄は勤労動員で軍事工場へ、由里も黒髪に鉢巻をして、軍事工場で働くことになり、その後雪雄は国の為、父母兄弟に代り、米英に向かって死を覚悟して予備学校の試験を受け合格して、昭和二十年知覧飛行場から、片道燃料で沖縄の米軍へ迎ったが途中事故で、吐咖唎列島の前島で不時着し、助かり無事生還し、由里と結ばれることとなった。

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