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夢を叶える場所<鞍馬山の木の根道>

明石鯛
ジャンル:ショートショート
場所:鞍馬山の木の根道
    The Kinone Street

「いよいよプロ野球選手の自主トレがはじまっています。
本日は、名門チームのライトで四番、内藤選手にお話をうかがいます。
内藤さん。自主トレは、今年も、鞍馬山でスタートですね」
「そ~やねぇ。ま、毎年のことやからね」
「この鞍馬山にこだわる理由って、何かあるんですか?」
「オレにとっちゃ、聖地やからね、ここは」
「え、聖地といいますと?」

 内藤の頭の中では、リトルリーグ時代に、鞍馬山の根道につれてこられたときのことが、浮かぶ。監督の声が、いまでもくっきりと再生されるのだ。
━━いいか、ここは夢を叶える場所だ。源義経って知ってるか? 鎌倉幕府をひらいた源頼朝の弟だ。その義経が子供のころ、牛若丸と呼ばれていた。その牛若丸はここ鞍馬山に預けられて厳しい修行を行っていたんだ。何のためだと思う? 夢だよう。夢のためだ。宿敵の平家をたおす、というでっかい夢だ。この木の根が浮き上がってボコボコしている道を見ろ。ここで牛若丸は、自由自在に跳躍する訓練をしたんだ。訓練は地道だぞぉ。でもそれが、やがて船から船へと跳び渡って敵を討つ<八槽飛び>の活躍につながったのだぁ・・。訓練せずにいきなりプロ野球選手になった人はいない。夢に向かって努力をつづけた人だけが、プロになれるんだということをしっかり頭に刻み込んでおけ!━━
 その時、内藤は、確かに牛若丸の幻影を見た。白い衣を身にまとった牛若丸が、身軽に高々とジャンプするところを。それ以来、冬場になると、内藤は鞍馬山にきた。そして、牛若丸に、新たな大きな夢の実現を誓ってきたのだ。それがいまの自分をつくってきたと信じている。

「ここに来ると、なんだか励まされるんですわ。がんばってやらにゃいかん、っていう気が湧き出てくるんやね」
 あいかわらずアナウンサーはトンチンカンな質問を繰り返している。
 僕は、テレビ画面の、内藤の背後に、白い影が舞うのを、確かに、見た。


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