ノベルなびアップロード

ウキフネ<宇治川>

まさみ
ジャンル:恋愛?
場所:宇治川
    Uji River

 車が走り出すと係長は無言になった、予告通りに。
「柴田君の運転の邪魔したくないし。ナビは必要に応
じてするけど」
そういうわけで、かれこれ1時間、車内はFM局のラ
ジオが軽く流れるだけ。運転の合間に、俺は何十回も
何故、係長と宇治なのか、の問いを繰り返していた。
本当に、何故なんだろう。二日前の晩、事務所で二人
で残業していて、気がついたら自販機のコーヒーと煙
草で一緒に休憩していて、更に気がついたら、話はウ
キフネになっていた。俺が知らないと言うと、係長は
軽く頷いて、では土曜に宇治に行こう、と言ったのだ。
普段からそんなに親しくもない関係だから、本気にし
ていなかったのに、昨日の帰り際、念押しされた。さ
れたから、今、こうしているのだが、しかし、何故、
俺が、貴重な休日を、係長と・・・。
「えーと、そろそろ高速、終いですね。宇治西で下り
るんすか、東ですか?」
「西で下りて。そのまま、東に進めば川があるから。
そこに、浮舟は身投げしたらしいよ。そのあたり、ブ
ラつこか」
 ブラつきながら、係長は男A男Bの二人に愛されて
悩んだ女、浮舟の話をした。
「いろんな人が、派手で強引な男Bに惹かれてたって
言うんやけど、そいつ、ちゃらんぽらんでねえ」
「知人ですか?」
「ま、いつの時代も似たのは、おるわな」
 妙に優しい声で、係長は言った。係長にも、浮舟問
題があるのか、それで今日、ここに来たのか、と俺は
ふと思い当たった。まさか。係長に限って。
「係長、移動しますか、ちょっと、風出てきましたよ」
 黙っていれば、いつまでも宇治川の川面を見つめて
いそうだ。
「飽きた?我慢のできんヤツやなあ、柴田君は。出世
できへんぞ」
「出世なんか、いいっすよ。それより、係長、その、
ウキフネには、男Cが現れるんっすか?」
「ううん。命は助かったけど、もう、恋愛とかには懲り
たんやろうねえ、尼になるねん」
 サイアク。係長にはあるまじき選択肢だ。
「えーと、ソレ、物語ですから、係長。絶対、Cが現れ
ますから、あきらめんといて下さいね」

 俺は、今もあの宇治川を見つめていた係長の横顔を覚え
ている。ウキフネという名前とともに。

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