原 瑚都奈
ジャンル:ライトノベル
場所:宇治川 中州
Uji River
京阪電車の宇治駅を出て横断歩道を渡ると、川沿いに観光に重きを置いた小道がある。そこを歩きながら、私は幼なじみである裕樹の十六歳にしては大きい後ろ姿を睨み付け、口をとがらせた。
「ね、ちょっと、待ってよ! 抹茶アイスがあるよ、茶だんごもあるのよ? ね、食べようよぉ!」
ついてきて欲しいところがある。そう電話があったのは今日の朝のこと。付き合っているわけでもないのに何だろう、と思いながらも、暇だったので二つ返事でオーケーした。
だが、ついて来たはいいものの、この様子はおかしい。食いしん坊のくせに、お茶屋に寄る気配がない。それに待ち合わせしたときもそうだ。「ちと、遅くはないか」と言われたし、「女、宇治へ行くぞ」とも言われた。電車の中でも私に向かっては何も言わないのに、一人で「だまってろ」とか「拙者は」とかぶつぶつ呟いているし……。変だ。幽霊でも乗り移ってるんじゃなかろうか。
数分そのまま歩き、宇治神社の前まできた。大きな赤い鳥居の横には可愛い七五三参りの親子連れ。小さな女の子が、着飾っておしゃまにポーズを取っている。それに気をとられていたら、裕樹の背中にぶつかった。
「ちょっと、なんで立ち止まるの?」
低い鼻がもっと低くなってしまった気がして、私は鼻を押さえる。見上げると、彼は宇治川の方を眩しそうに見ていて……突然、走り出した。
「……ウソぉ……」
ここ数年、体育のマラソン以外で彼が走っている姿を見たことがない私は、ぽかんと口をあけた。朱色で彩られた、中州へと続く橋を彼は渡り始める。狭くはないが広くもない橋の上、観光客が慌てて彼に道を譲る。悲鳴と怒号が飛び交う。
このまま帰ってやろうか。そう、思わないこともなかったけれど。幼なじみのよしみで私は後に続いてやった。彼は、橋を渡ってすぐ右手にある石碑の前で蹲っていた。彼に押しのけられた人は怒りを露わにしながらも、そこで号泣する彼に何も言うことができずに帰って行く。人が在る程度近寄らなくなると、裕樹もだんだんと泣きやんだようだ。恐る恐る近づくと、彼は突然こちらを振り向いた。
「……私は、此処に来たかったのだ……。女、それに裕樹よ……ありがとう……」
その言葉が私の耳に届くと同時に裕樹の体がビクンと震え、崩れ落ちる。
……意味が、わからない。
残されたのは、涙で頬を濡らしながらも微笑みをたたえた彼と、呆然と彼を見つめる私、そして石碑。「宇治川先陣之碑」と書かれたその石を見て、私は「あぁ」と声を発した。
京都には、未だ眠ることのない魂が在る。いや、幽霊といった方が正しいのだろうか。何百も何千もあるそれらの中の一つが、彼に助けを求めたのだろう。はた迷惑な話だ。そう言えば、この前ユッコも体験したって言ってたっけ。
「……こうなってくると、私の番も近いかな」