三里 顕
ジャンル:SF・ファンタジー
場所:京都タワー
Ktoto Tower
「安全の為に、影をお取り下さい」
エレベーターガールが言う。しかたがないので僕は靴べらを使って、足下から続く影を取り去った。
初めての街で、駅から出た僕は視界にタワーを見つけてしまい「まずこの街を上から見てやろう」と思ったのだった。タワーの根元のビルはお土産品を色とりどりに備えていたが、売り場をかいくぐって展望室の受付に向かった。大人並・770円。大人特上・1000円。
特上って何だ?
受付のおばさ……お姉さんに尋ねた。曰く「特上は特上です。並より上質です」。意味がわからなかったが、1000円ならバカ高いわけでもない。土産話のネタになれば、と特上のチケットを買った。
僕から離れてしまった僕の影はなんだかとても寂しそうにしていたので、コンペイトウの袋を渡した。「全部食べてしまってもいいから」と。コンペイトウは僕の大好物だ。
スーツケースは影が見ておいてくれるらしい。身一つでエレベーターに乗る。
四角い箱の中、エレベーターガールと僕の二人きり。エレベーターガールが何も言わないので、僕はじっと階数表示のパネルを見上げる。
展望室に着いてエレベーターの扉が開くと、目の前に女の人が立っていた。エレベーターガールと同じ制服を着ている。
「特上です」
エレベーターガールが目の前の展望ガールに言う。展望ガールは深くお辞儀をして、
「こちらへどうぞ」
と言った。僕は従う。あ、展望ガールにも影がない。そんなことを思いながら展望ガールの後を追う。
展望室からの眺めは素晴らしかった。歩きながら横を向いただけなんだけど。古都の街だと思っていたが、眼下に広がるのはビル群だった。
「こちらです」
窓も何もない壁に案内された。換気扇がある。どこが特上なんだよ。と、展望ガールが換気扇のヒモを引く。途端に吸い上げられてしまう、上に。ビューって、まず足が床から離れ、髪の毛が吸い込まれ、気付くと、空中。展望室のもっと上? ってか、外?! まだまだ上昇し、どんどんビルが小さくなる。タワーさえ小さくなる。もっともっと上がり、何もかもが小さくなって、僕は気が遠くなってきちゃって、後は覚えてないんだ。
正気を取り戻したとき、僕はタクシーで今夜泊まるホテルに向かっていて、影はちゃんとあって、けれど、コンペイトウが袋だけになっていた。夢だったのか本当だったのかわからないから、土産話にもならない。